【一日一作プロジェクト】アルファベットシリーズ「N(えね)」を作った。アニスクロ渓谷の一本道を進んで行くと、前方から不思議な音が聞こえて来た。
「あれ!見て。羊たちだよ」「うわ〜道いっぱい」
そばには羊飼いのおじさんが!やっと誰かに会えた(笑)うれしい〜。なんという安心感。この時点で、渓谷めぐりはおよそ半分。これで、何かあってもここに戻ればおじさんが。
「ブエノス・ディアス」
挨拶をしてすれ違う。しばらくして、ハッとする。
「あの羊飼いのおじさん、どこから来たんだろう?」
ここまで、村はひとつもなかった。次の村といっても、10キロ以上ある。まさか10キロ、あの羊たちとここまで?振り返ると、羊たちの姿はもう見えなかった。
「まさか、幻の!」
旅人だけに見える羊たち。大雪で通行止めになる直前に現れる羊飼い。冬を告げるために。「この道を通ったら危ない」と旅人に教えるために。むくむくと妄想がふくらむ。
「ピレネー山岳ミステリーが書けそう」「絵を描くんじゃなかったっけ?」
そうです(笑)。でも、物語性は大切だ。
「どこから来たのか、聞けばよかった」「どこに戻って行くんだろうね」
しばらく狐につままれたような気持ちで、渓谷の小道を進む。数キロ先で突然、ハビ吉が車を止めた。
「ここから遊歩道が始まるんだよ」「えっ、歩くの?」「少しだけね」
聞けば、絶景ハイキングコースがあるらしい。私たちは眺めのいい所まで行って引き返すことに。落ち葉を踏みながら、林の中を進む。苔がびっしり。辺りは静寂に包まれ、人っ子一人いない。
「ぎゃ〜この橋、こわいよー」「写真を撮ろう」
渓谷に架かる石橋から、絶景が広がる。さらに、見晴らし台へ。なんという壮大な眺め。あまりの美しさに我を忘れて歩き回ってしまうが、手はかじかんで凍りそうだし、お腹も空いてきた。
「温かいお茶が飲みたい〜」「お腹空いたー」
車に戻り、再び一本道を進む。坂道をぐんぐん登って行くと、これまで通って来たアスファルトの道がはるか眼下に見えた。1匹の白い蛇のように。
「あのぐにゃぐにゃ道を通って来たんだ〜」
しばし感動。登ったり下りたり。何十というカーブを上手に運転してくれたハビ吉。ありがとう〜。ランチは全てごちそうさせていただきます。
「国立公園オルデサ&モンテ・ペルディード」
なんてすてきな場所だろう。結局、羊飼いのおじさん&羊たちにしか会わなかったけれど、夏には観光客でもう少しにぎやかなはず。
「次の村で、お茶にしよう」
そこから8キロという村をめざして、車を走らせる。その時、まだ私たちは知らなかった。それから訪れる村という村。そのどこにもバルやカフェテリアがないことを。(明日に続く)