ピレネー山岳の旅&Q

【一日一作プロジェクト】アルファベットシリーズ「Q(く)」を作った。フロントのお姉さんが、目を輝かせながら「1枚の地図」をそっと差し出す。

「このチスタウの谷!絶景の村々が広がる、知る人ぞ知る秘境。絶対おすすめです」

その目の輝きたるや「ここに行かずしてどこへ⁉︎」と言っている。うおっし、行こうじゃないか〜。そのなんとか谷へ。意気揚々と朝イチで出発。

「朝食どうしよう?」「どこかの村で食べればいいよね」

この辺が甘い(笑)都会育ちの私たち。「大丈夫。いざとなれば車の中にカップケーキと水があるから」。ハビ吉の言葉のごとく、本当に朝食がそうなるとは。まだ知らぬ平和な私たち(笑)。

「チスタウの谷かぁ。すごい山道だね」「どんどん標高が上がっていくよ」

「全く観光化されていない」というお姉さんの言葉どおり、険しい山道が延々と続く。とにかく標識が少ない。何事も「自力で」たどり着かねばならないスペイン。

「かわいい〜。あの村に寄りたい」「あっ、こっちの村も」「あの村で止めて〜」

窓から大騒ぎする私に「そんな時間はない」と静かに切り捨てるハビ吉。「写真だけでも〜」とわめくと

「ももがしたいことを全部するのには1ヶ月かかるよ。次回は1ヶ月でプランして」

わかりました(涙)。谷底から伸びる一本道は、やがて山の中腹へ。いくつものトンネルを抜けて、山頂へと坂道を登って行く。何十というカーブを曲がり、突然ぱっと視界が開けた瞬間

「村だ!」

山の斜面にへばりつくようにたたずむ集落「ヒスタイン村」。なんて美しいたたずまい(写真)。標高1946m。来週あたり、この辺りには雪がちらつくのかも。除雪車も入れないこのチスタウの谷は

「雪の間は、外界から閉ざされる」

そういう場所が、まだピレネー山岳にはたくさんある。聖地。簡単には足を踏み入らせてもらえない場所。

「静かだねぇ」「声が響くから小声になっちゃうよ」

マラガでは腹式呼吸の大声なのに、ひそひそ耳元で会話をし合う私たち。のんびりくつろぐ猫ちゃんたちにお出迎えされ(写真)石造りの集落をぐるりとひと回り。

「村のどこからでも、山の稜線が見えるね」

2699m、2658m、2623m、2593m、2534m・・・今、私たちが目にしているのは2000m級の山々なのだ。村の標高が高いから、山頂がすぐ目の前に見える。

「お店、開いていないね」「ってか、この村にお店とバル、1軒ずつしかないの⁉︎」

その貴重な2軒が閉まっていては仕方ない。「温かいお茶」を飲むって、難しいんだなぁ(笑)。その時、不思議な音が辺りに響き渡る。コロコロ、ガラガラというあの心地よい音色は・・・

「羊たちだ!」

首につけられた鐘が、何十と一斉に鳴るのでどこにいるのかすぐわかる。音のする方に向かって走り出すと

「うわぁああぁあ〜〜〜」

何十頭という羊とヤギが、ものすごい勢いでなだれ込んで来た。

「ブエノス・ディアス。写真を撮ってもいいですか」「どうぞ〜」

今日の羊飼いは、70歳くらいのおばさま。この村で、ずっとこうして生活してきたのかしら。何だかしみじみ。そういえば、村の入口には「動物たちの水飲み場」があった(写真)。

「僕たちの朝食を食べる場所が見つかったよ」

ハビ吉が、意気揚々と戻ってくる。ついて行くと、それは「石でできたテーブルとベンチ」だった。南米の山頂に造られた巨石文化を思い出す。ま、寒そうではあるが、ここにはそれらを帳消しにする絶景が。

「2000m級の山々に囲まれた石のテーブル」

すごいな(笑)。お尻が冷たいのでジャケットを座布団に。「はい、カップケーキと水」。ハビ吉から朝食を手渡され、ガツガツと喰らう。その時、私の足元に1匹の子猫が現れた。

「みゃう〜」「あれぇ、お腹空いてるのかなぁ」

唯一の食料がカップケーキなので「こんな物は食べないかも」と思いつつ、そっと差し出してみる。と、人懐っこく寄ってきた。きゃ〜。

青い空、新鮮な山の空気。2000m級の山々に抱かれ、猫ちゃんと朝食。カフェテリアよりよくない?(笑)。その傍らでは、おじさまが「薪を割って」いた(写真)。この村で出会ったのは

「猫と羊とヤギ。羊飼いのおばさま。そして薪を割るおじさま」

生活村の美しさとたくましさ。その両方を兼ね備えたヒスタイン村。ここまで来られて、本当によかった。

「チスタウの谷めぐりはここまで。来た道を戻りながら、景色や村を見て街道に戻ろう」

てきぱきと指示を出すハビ吉。車に乗り込む前にもう一度、ヒスタイン村を振り返る。来る予定ではなかった。フロントで教えてもらわなければ、チスタウ谷の存在を知ることさえなかった。人生は不思議だな。

「描きたいものが生まれた瞬間」

この村で過ごした時間の中に「何かとても大切なもの」があった。琴線に触れる何かが。ただ今、消化中。心に生まれたインスピレーションの芽を、大切に温め続けよう。(明日に続く)

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