己夢道

【一日一作プロジェクト】「己夢道」を作った。オウム問題の続き。スペインの許可証の申請にあたり、なぜ必須書類(基本中の基本である)

「オウムの出生証明書、購買証明書がないのか」

詳しく書いて送ることにした。はるか19年前。食料品の買い物によく通っていた大型ショッピングセンター。レジを出たところにあるペットショップに立ち寄るのが、私たちの習慣だった。

「この子、全然売れないね」「どんどんボロボロになっていくなぁ」

ベラと二人、鳥かごの中にうずくまるオウムに心を痛めていた。1ヶ月、3ヶ月、5ヶ月、・・・見るたびに元気を失い、無表情になっていく。

最初はレジ横に置かれ「看板鳥」としてスタートしたのに、いつのまにか店の隅に追いやられ、羽はすり切れ表情は乏しく、エサもひまわりの種しか与えられず、どう見てもビタミン不足。

チャームポイントである赤い尾羽もすり切れてなく、ただの灰色の地味なオウム。ってか、鳩みたい。これじゃ、売れるわけがない。

「元気になって、いい家族にもらってもらいたい」

私たちは「秘密のプロジェクト」を決行することにした。スーパーで買ったばかりの

「リンゴを一切れ、こっそりオウムに手渡す」

と言う(←もちろん禁じ手)。罰金覚悟で敢行。とにかく証拠が残らないよう、リンゴは食べ切れるサイズにして。最初は「ん?」という顔をしていたオウムも、3回目あたりから慣れてきて

「ぷぷぷっ」

と、私たちの姿を見ると近寄ってくるようになった。ベラが店員の気を引き、その間に私がリンゴを素早く手渡す、というコンビネーション技。そうして1年近く

「秘密のリンゴ作戦」

は続いた。が、ある日。私たちの努力もむなしく、ついにオウムはショップの1番奥の、暗い片隅に追いやられてしまう。

「この先はもう処分なんじゃ?」「この子を救いたい」「私たちが飼おうよ」

気持ちはすぐに決まった。が、問題は価格。ヨウム(アフリカングレイ)はショップで1番高い、超高級鳥なのだ。私の月収と同じ。なので、簡単には手が出せない。そこで。意を決してお店のお姉さんに直談判することにした。

「実はもう1年前からこのオウムを見ている」「見るたびにボロボロ」「これではもう売れない」「私が大切に飼うから、安くゆずってもらえないか」

それを聞いたお姉さんは「ああっ」と大きな声を上げ、私とベラの顔をにらみつけた。

「あなたたちね!リンゴをあげていたのは」

バレてたのか〜(汗)。その目は「やっと犯人を発見」した驚きと興奮で、怪しく輝いている。私たちは素直に「すみません」と平謝り。

「ペットショップの怪事件になってたのよ〜」

リンゴのカスはどこから来るのか。どうしてこの鳥かごにだけ、この「不思議な現象」が起こるのか。「リンゴ怪事件」の真相を説明すると、お姉さんは力強くうなずきながら

「わかった。店長に聞いてみる」

と、すぐに電話をかけてくれた。そしてわずか10分後。

「OKだって!特別価格。大切に育ててくれるなら」

お姉さんはニコニコしながら「あなたたちに飼ってもらるなら、この子も幸せだね」と、その場で鳥かごごと、私たちにオウムを手渡してくれた。叩き売り価格で。購買証明書も出生証明書もなく。まさに

「体ひとつ」

で、うちにやって来たオウム。それからみるみる元気になり、あっという間に19年。そのペットショップはその数年後に閉店し、購買証明書の発行を頼むこともできない。

そんな事情をメールで綴っていると(もうほとんど「オウム物語」メール版)、これまでのことが思い出されて、胸がいっぱいになった。

「購買証明書や出生証明書がないから、私たちは家族ではないのでしょうか?」

あの時、見過ごした方がよかったのか。処分されてしまった方が?ただ、救いたかった。愛したかった。それだけの気持ちだった。紙のことまで頭が回らなかった。

「どうか書類で、私たちを引き離さないでください。お願いします」

メールを送信した後、しばらく放心状態で泣いていた。オウムがよろよろと近づいてくる。ごめんね。今回ばかりはダメかもしれない。

「どんなに努力しても、できないことだってあるのかも」

不安でくじけそうになる。が、19年前。こっそり1年間リンゴを与え続け、お店から救い出すことができたのだ。今回だって。まだわからない。希望はある。

「よしっ、お母さんやるよ。次は写真だ〜」

涙をふいて、資料となる写真を選ぶ。ピアノの端にとまったオウムに、うれしそうにピアノを弾く子供たち。オウムをモデルにマーカーで絵を描く子供たち。ベラとオウムと3人で暮らした日々。写真を選んでいると、また涙が出てくる。

「パートナーのベラが亡くなり、1人になった私を支えてくれたのはオウムです。スペインの私の唯一の家族であるオウムを、どうか取り上げないでください」

懇願のメールは、毎日続く。無視されても「もう送るな」とは言われるまで、続けるのみ。

「家族としての証明書がほしい!」

どうしても。ただそれだけ。いろいろなところに問い合わせるうち、私と同じケースが山のようにあることがわかってきた。というのも、10数年前は絶滅危惧種第一級ではなく、ふつうにペットショップで売られていた鳥なのだ(その後は購入時に証明書がセットされているらしい)。

「事務所側もそれはわかっている」

らしく、メールで応援してくれる女性は「誰かの心を動せば、奇跡を起こせる」と、私を支え続けてくれた。そんな中、次第に

「Mさんに会いたい」

という気持ちが芽生えてきた。会って話がしたい。その思いを伝えると、すぐに住所が送られてきた。地図で探すと、車でなくてはとても行けない場所。郊外のど田舎。さっそく友人にお願いし、車を出してもらうことに。

「あさって伺います!」

ついに、Mさんに会える。オウム問題が始まってから、私の人生はものすごい勢いで動き出した。初対面の方々に、毎日全力で人生を語る。訴える。懇願する。なんとしても解決法を見つけ出さねば。オウムの幸せのためなら、何だってやるぜ〜。

「己夢道(おのれゆめみち)〜歩いたところが道になる」

「夢」という文字が踊る。夢への道は、見えないけれど、大切なのは歩くこと。道は、歩くことで作られる。歩いたところが、道になる。

みなさま、すてきな1日を。スペインは飛び石連休中。オウム問題は、あさってに続く。

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