PAZ

【一日一作プロジェクト】「PAZ」を作った。いよいよA県へ向かって出発。特急に乗り、まずはマラガからマドリードをめざす。オウムと初めての2人旅。これが楽しい旅ならよかったのに

「行きは2人で、帰りは1人」

なんて淋しい旅だろう。こんな悲しい旅は、したことがない。鳥かごを胸の前で抱えながら指定席へ。悲しみを心の奥に押し込み、いつもように笑顔で話しかける。

「これからナナちゃんに会いに行くんだよ〜」

これが、はたして正しい選択なのか。わからない。でも。人生には、たとえ先がわからなくても、かける時がある。飛び込む時が。祈るような気持ちで突き進む時が。列車はほぼ満席。

「あら〜、オウムちゃん。かわいいね」「ママと一緒に旅行でいいね」

周りの方々が、温かな声をかけてくれる。うちのオウムは列車に乗ったことがなく「ギャーギャー泣き叫んだらどうしよう」と、実は不安でいっぱいだった。どうにもダメなら

「食堂車や通路にいればいいか」

と腹をくくる。隣は30歳くらいのお兄さん。通路をはさんで、60代のご夫婦。すると、その奥様がニコニコしながら

「私もこのヨウムを飼ってたのよ」「そうなんですか!鳴きわめかないか心配で」「あーら、行儀の悪い子供に私たちいつも我慢してるんだから、今日はあなたの番。平気な顔してりゃいいのよ」

おぉお〜。ムーチャス・グラシアス!その一言に救われる。私の緊張を感じ取ってか、オウムはとてもいい子。ぴーとも言わず、じっとしている。お互いの顔が見えるよう、鳥かごをテーブルの上に設置。まずは無事マドリードへ到着。第一関門突破。

「いい子にしてたね〜。えらいね」「旅を楽しんで!」

さきほどのご夫婦が、ホームでまた声をかけてくれた。思いやりが心に染みる。あの心優しい人たちは、まさかこれが私たちの「最後の2人旅」とは、思ってもいないだろう。こんな事情を抱えているとは。

「よっし。ここで乗り換え。50分あるから、ランチにしよう」

実はA県に着いたら、その足で動物病院へ。健康診断の検査が待っているので、2時間前から絶食。どうしても、ここで食べておかなくてはならない。なんせ朝7時に家を出たので、2人とも朝食ヌキ。

「お腹は空いているはず」

さっそくオウム用のお弁当を取り出す。昨日の夜、大好物の「茹で野菜」を作っておいた。ジャガイモ、にんじん、ブロッコリーを茹でながら

「これが、私が作ってあげられる最後のお弁当なんだなぁ」

と思うと、悲しくて切なくて、しばらく台所で泣いていた。デザートには大好物のバナナ。せめて最後は、好きなものを食べさせてあげたい。

「はい、食べるよ〜。検査が終わる4時過ぎまで、何も食べられないから」

自分用にはサンドイッチ。一口かぶりついてみるも、全然喉を通っていかない。胃がキュッと縮まって、喉がぐっと詰まって。オウムも私も、一口も食べられない。こんなことは初めて。

「朝食も、ランチもヌキの旅になっちゃったね」

仕方なく水だけ飲んで、乗り換えの特急に乗る。ここからA県まで、約2時間。これが、めちゃ空いている。横も、前後も、誰もいない(写真)。

「ここなら遊べるね」「ぷぷぷっ」

リラックス〜。テーブルに鳥かごを乗せて。オウムも小さな声で「ひゅー」「ぷぷっ」。おしゃべりしながら、キャリーの中で軽く運動。ほっとできてよかった。束の間の平穏。そして、ついに。

「A県へ到着」

初めて訪れる町。初めて降り立つ駅。改札を抜け、駅の前へ出ると、見たこともない景色が広がっていた。

「来たこともない場所で、会ったこともない人を待つ」

その、なんという心細さ!これから、どうなってしまうのか。鳥かごを持って、ぽつんと駅前に立っていると、足元から崩れ落ちそうになる。この身が、あまりにも頼りなく無力に思えて。

「このままオウムと一緒に、どこかに消えてしまいたい!」

涙がこぼれないように上を向いていると、前方からクラクションが鳴った。ドアが開き、1人の男性が降りて来る。

「もも!こっち」

ペペだ。写真で見たとおりの微笑み。その瞬間、ぱちんとスイッチが入り、私は力強く踏み出した。ここまで来たんだ。この運命にかけてみよう!

(明日に続く)

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