【一日一作プロジェクト】「命環(いのちのわ)」を作った(2022年の作品)。「手続き問題・4」。マラガから5時間半。列車を3本乗り継ぎ、やっとぺぺの家へ。
「もも、よく来たね。ココが待ってるよ」
ぺぺがハグで迎えてくれる。オウムたちが楽しそうに飛び回る5メートル四方の屋外ゲージ。自然木や花に囲まれた楽園。の隅で、ココは鳥かごの中に入れられていた。
「本当にすみません。他の子たちを怪我させて」
ぺぺが指さしたインコの顔には、まだ傷あとが残っていた。どうしてこんなことを。ひたすら謝るしかなく、それでもぺぺは穏やかな口調で
「ココは、ももが迎えに来ることだけを待っていた。ふつうは1ヶ月くらいであきらめて、仲間と遊び始め、新しい環境に適応するんだけどね」
これまで、何十羽と鳥をあずかってきたぺぺが言う。メスのナナちゃんにも全く興味を示さず、それどころか近寄ると追い払っていたらしい。
「ココは自分を貫いた。こんなオウムはなかなかいないよ」「ぺぺ、本当にごめんなさい。そして今までありがとう」
鳥かごへ近寄ると、ココは1人で遊んでいた。こちらに背を向けて。その後ろ姿に向かって、そっと声をかける。
「ココ・・・」
振り向いたココは、きょとんとした顔でこちらを見ていた。その表情がゆっくりとゆるみ、ぼわっと羽をふくらませる。うれしい時、ホッとした時、眠い時、そうするように。
「おいで。よくがんばったね」
ドアを開けると、ココはゆっくりと鳥かごから出てきた。あわてることも、騒ぎ立てることもなく。「あたりまえじゃん」みたいな顔をして。必ず迎えに来てくれること、連れ出してくれること
「僕は知ってたよ」
そんな表情をしていた。それから、ココを思う存分抱きしめ、30分ほど遊んだ後、移動用のゲージに入れた。ゆっくりしてはいられない。これからまだマラガまで5時間半の旅が待っている。ココはまるで
「これから自分の家に帰る」
ことを知っているかのように、ゲージの中でおとなしくしていた。列車を乗り換え、次第にマラガが近づいてくる。半年前、私は同じルートで旅をした。ココを養子縁組に送り出すために。
「行きは2人で帰りは1人」
のそれは寂しい旅だった。それが今回は「帰りも2人」。一緒に家へ帰る。ただそれだけのことが、贈りもののように思えた。
「おうちへ帰るんだよ」「ぷぷっ」
たとえ、この先どうなるかはわからないけれど。日本へ連れて行くにしても、スペインに住むにしても。この小さな命を守れるのは私だけ。
「家族が一緒にいられない」「愛する者同士が離れ離れになる」
法律なんて、おかしい。私の中から、怒りに似た決意が湧き上がってきた。これは、闘いだ。なんとしても家族を守る。母として。
そして。その決意こそが、私たちを底なし沼のような手続き地獄へと、巻き込んでいくのだった(つづく)。