今回のニッポン帰国は、11月だったので
ジャズの名曲「枯葉」で、コンサートの幕を開けることに決めていた。
わたしたちの住む地中海のマラガは一年中温暖、
かの地中海性気候なので、枯葉も、紅葉もない。
青い空にヤシにハイビスカス、そしてオリーブの木々。
だから、せめてこの曲を弾きながら「秋」を感じるのだ。
今回は「ハンガリー舞曲第5番」「エリーゼのために」のジャズ・アレンジ版、
ラテン音楽の名曲「コーヒー・ルンバ」のサルサ風味など
お客さんといっしょに楽しみたい曲がたくさんあったので
あっというまに、1時間半が過ぎてしまった。
磁叟庵(じそうあん)のコンサート会場は
「お客さんと演奏者の距離感」が、抜群にいい。
互いの顔、表情が見える。呼吸まで聴こえるような距離感は
お客さんと演奏者の一体感を生む。
直接エネルギーのやりとりができる小さな会場、
ライブハウスが、わたしたちは好き。
「おおー、ムッシュー・大野!」
客席の中に、大野さんの姿を見つけたべラが、声をあげた。
帰ってきた、という気持ちが胸にうずまく。
待っている人がいるから、わたしたちは帰る。
土地に帰るのでなく、人に会いに帰る。
ふるさとは、生まれた場所、育った場所ではあるけれど
年を重ねてきてつくづく
自分を待っていてくれる人がいる場所がふるさとなのだ、と思う。
わたしにとって、愛知県、岐阜県がふるさと。
20人もの方が集まってくださったことを、わたしは忘れない。
おばあちゃん市の、手のこもったお弁当の味。
曽根さんの奥さまのものだという、美しい木製のピアノ。
岡崎から駆けつけてくださった賢田さんと、かわいらしい奥様の笑顔。
実は奥様とはつゆ知らず、
演奏中、舞台の上からはじけるような笑顔で体を動かしている女性を見て
「まあ、なんて表情の豊かな人だろう!」
と、思っていたら・・・
美濃加茂から駆けつけてくださった大野さんとかなさんは
相変わらずの名コンビぶりだった。
これだけトーンのちがう二人も珍しい。でも不思議と、息はばっちりなのだ。
このお二人との珍道中(?)は、この後の「岐阜の紅葉ランチ」
「草の根交流会コンサート」などで、詳しく紹介していくことにして・・・
「これ・・・もらいました!」
わたしたちが帰る準備をしている間、ひとり廊下をうろうろしていたべラが
うれしそうに、手に湯のみを持って現れた。
「どうしたの!」
「プレゼント・・・と思う」
「べラちゃん、勝手に持ってきちゃったんじゃないの?」
母が心配して
「ちょっと、もも、確認してきて!」
磁叟庵の一角は、「ギャラリー」になっている。
手工芸品の展示会や販売が、定期的に行われているのだ。
この日はちょうど、陶器の展示が行われていたので
わたしは恐る恐る尋ねた。
「あの、これ勝手に持ってきちゃったんじゃないですか・・・」
「いーえ、さしあげたんですよ!スペインに持って行って使ってください」
「本当ですか。わぁー、ありがとうございますっ!」
磁叟庵でのコンサートは、わたしに
「こんなに美しい国に住んでいたんだな・・・」
ということを、思い出させてくれた。
ニッポン再発見。
車に乗り込む最後まで、ご家族総出でお世話をしてくださった曽根さんご一家。
本当にありがとうございました。