8.ニチイケアセンターコンサート

今日のコンサート会場である中津川のニチイケアセンターに着くや
わたしたちは平謝りして
「ピアノのアダプターがないこと、ハーモニカを忘れてしまったこと」
を、真っ青になってお伝えした。
「ああ~、いいですよ。おばあちゃんたちとお話ししてくだされば・・・」
とは言ってくださったが、なんという失態。
きみどり家メンバーがぼろぼろな中、べラはひょうひょうと登場。
「おばあちゃん、お元気ですかー」
と、人懐こい笑顔を見せている。
「ああぁ、べラちゃんが怒る人でなくてよかったー。後でおこづかいあげましょう」
と、母など涙目である。

コンサートは始まったものの、伴奏がないので
べラはすべて一人で弾かなくてはならない。
これでは45分もたないと判断し
「みんなで『ハンガリーの歌』をうたいましょう!」
「スペインはどこにあるか、知っていますか?」
「みんな唱歌をうたいましょう~」
「スペイン語で挨拶しましょう、オラー!」
と、これではコンサートというより、お楽しみ会である。
センターのスタッフのみなさんが、それは上手に盛り上げてくださるので
わたしたちもいっしょに、楽しませていただいた。

コンサートの最後に、べラがスペインから手荷物に入れて
大切に持ち込んだ「くつ下人形」を披露することになった。
「こんにちはー、ココですっ」
人形を右手にはめて、おばあちゃんたちに近づいていくと
「うわぁあ~っ」
と恐ろしがって、前にいた一人のおばあさんが逃げようとする。

後でべラが、このときのことを思い出し
「どうして怖かったのかなぁ、ココちゃん、かわいいのに・・・」
と、つぶやいていたが、その横で母がこっそり
「あれは、べラちゃんに驚いたんだねぇ、あんな大きな外国人が近づいてきたから」
と、本人には訳せないようなことを言っていた。

とくばあちゃんは、元気そうだった。
食欲もあり、よく歌い、よく笑った。
93歳になっても、冗談やダジャレを言って、わたしたちを笑わせてくれた。
そして最後、見送りながらわたしとべラに向かって
「ふたりとも、仲良くやりんさいよ」
と、言葉をかけてくれた。

中央道に乗り一路、豊橋に向かう。
「ああ~来年は絶対、失敗できないね!どうしてハーモニカ忘れたのかなぁ」
とため息をつきながら、母が座席前のポケットを開けた瞬間だった。
「ああぁーっ、ハーモニカが入ってる!」
「はあぁっ!?」
「お母さん、心配でここにしまったんだった・・・」
「・・・・・・・」

すべてを見ていたべラは、静かにおせんべいを食べていた。
「どうして、気がつかなかったのー!」
「なんだ、そりゃあっ」
「だって、忘れちゃいかんと思って・・・ここに」
と、大騒ぎするきみどり家の人々を横目にしながら
「やっぱり、この家族とは絶対『銀行強盗』に行きたくないな・・・」
と、足をマッサージ機ですりすりしながら、静かにつぶやいた。

(「ニッポン再発見記・9」につづく)

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