イワシ35匹・大特価300円

昨日の食卓は、また「イワシ」が飾った。
これも、イワシが大特価なのと
べラが自転車でエル・パロ界隈をうろうろしていると
「セニョール・サルディーナ(いわしさーん)!」
と、魚屋さんに名指しで呼び止められてしまうせいである。

「新鮮なイワシが入りましたよ、セニョール!」
ここで、近寄って行ってしまうべラにも問題はあるが
イワシを一目見るや、べラは首を横に振った。
「うちは、小さいのは買わないよ。15センチ以上の太っちょのヤツね」
この日、売られていたイワシは、10センチ未満の
小ぶりな「マラガ・イワシ」であった。

「小さいイワシのおいしい食べ方、知ってます?」
「うちではいつも、焼いて食べますよ」
チッチッチッと、魚屋さんは舌をならすと、おもむろにレクチャーを始めた。
「まず、頭をもぎとる。で、指を入れてお腹を開き、内臓を取り出す」
「おお~っ」
「ほら、あなたもやってみなさい」
いわしを手渡されたべラは、慣れない手つきでイワシをさばき始めた。
「こう・・・ですかね」
「そうそう、で次に、中骨をとって。こっちからぐいっと・・・」
「あうーっ、あっ、できた!」
「うまい、うまい。セニョール!」

店頭は今や「イワシの下準備・講習会~講師実演中」の真っ最中であった。
やんやと人だかりができる中、べラはイワシをさばき続けた。

この日のもようをうれしそうに、うちに帰ってきて実況中継してくれたあと
「さ、ももの番だよ。まだイワシ、20匹あります!」
「ええーっ、何匹買ってきたの」
「35匹全部買えば、2・5ユーロ(約300円)だって言うから」
残りのイワシを開いてお皿に並べたら、大きな平皿5枚分。
まるで、レストランである。

「さて、ここからがポイント!レモンと塩、にんにくをふりかけて30分。
 で、味がしみこんだら、小麦粉を両面につけて・・・」
「今、うちに小麦粉ないけど」
「ええーっ、小麦粉ないんじゃできないよ。お隣さんに頼むか・・・」
コップを持って、べラがお隣のドリーさん宅をノック。
「すみませーん、小麦粉を貸してください。イワシを揚げるので」
「あら、今日はイワシなのね。どーぞ、持っていって!」
袋ごと小麦粉を手渡してくれたドリーさんは
実は、わたしたちが日本にいる間
いつもオウムの世話をしてくださるお方なのである。

さて、小麦をつけて、両面をさっと揚げる。
さらに好みで、レモンをしぼって
「いただきまーす!」

おいしい。ほんとに。レストランも顔負け。
それはいいが、わたしは8匹でおなかいっぱい。
べラは15匹。まだ、かなり残っている。35匹も買うから・・・
さすがに、お昼、夜と続けてイワシはきつかったので
今日、あらためて2日目のイワシ・ランチ。

ニッポンの母に、国際電話でこの話をすると
「そんな、イワシだけ、食卓が一品だけ、なんていう家庭は
 今の日本には、ないけどねぇ、はあぁ~」
とため息をもらしたあと、急に口調を変え
「うちはねー、今日はカツと、煮魚の残りと・・・けんちん汁!」
「・・・・・・・・」

あまりに豪華なので、その食卓を思い浮かべることすらできない。
うちでは食材、イコール食事なのだ。
これを書いていたら
今、急に「イワシ荘」という小説が書きたくなったきた。
イワシくさいから、イワシ荘。でも、地中海にあるアパートメント。
来週から、さっそく書いてみよう。

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