スーパーのレジ殺人事件

先日べラと、大型スーパーへ食料品の買い出しに行った。
夕方とあって、レジはかなりの列。
そのときであった。一人の50歳くらいの男性が
「ああっ」
と、驚きの声を上げた。レジで列を作っていた10人くらいが
一斉に、男性の視線の先を追う。

床の上に、赤い血だまりのようなものが、広がっている。
「おおー」
「うわぁ」
それぞれ驚きをもらしているとき、べラが口を開いた。
「これは血、ですね」
それは私立探偵の、あの事件を解明するときの
断定的な口調であった。

「ええっ、まさか。ケチャップでしょう、スーパーなんだし」
「血って、誰のですか」
それまで和気あいあいと買い物客でにぎわっていたレジに
異様な空気が流れる。
「スーパーのレジ殺人事件!」
べラの自信あふれる声に、レジの女の子までが顔色を変える。
「あなた、犯人を見ませんでしたか、犯人はここを通ったのにちがいありません」
「ええっ、わたし何も見てません!知りません」
女の子はセキュリティと掃除スタッフを、あわてて無線で呼びつける。

2分後。
セキュリティのお兄さんと、60歳くらいの掃除係のセニョーラが現れた。
「おおっ」
と、若いセキュリティのお兄さんが驚く中、セニョーラは顔色ひとつ変えない。
「あー、これは血だね」
「おおーっ」
みんなの視線がいっせいに、べラの上に注がれる。

「牛か豚の。肉汁がこぼれたんだねぇ」
「肉汁・・・・」
そんな簡単なことに、誰も気づかなかったことにみな呆然とする中
「肉汁に見せかけた殺人事件ということはありませんか」
と、まだべラがつっこむ。
セニョーラは口のはしに笑いを浮かべながら
勢いよくモップを、真っ赤な肉汁の中に突っ込むと
「証拠隠滅、掃除婦が新犯人!」

あまりにも鮮やかな結末であった。

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