9.べラは着せ替え人形

豊橋の実家に戻り、わたしたちはのんびり、リビングでお茶を飲んでいた。
「どこもすばらしかったけど、ここが一番おちつくー」
と言いながら、べラは床暖房の入ったリビングで
なにか太った大きな動物のように、ごろごろしていた。

正称はコスモドクター言うが
うちでは「電気ショック」と呼ばれている器械がリビングにおいてある。
「はい、べラちゃん、電気ショックやるよー」
「はーい」
この上でシエスタ(お昼ね)をすると、10分で眠ってしまうらしく
父に毛布をかけられながら
「ああー、また眠らされてしまう・・・」
と、つぶやいていた。

夕食前、両親からベラへ「贈答式」が行われた。
まずは「XXXXLサイズの服」。
特大サイズのバーゲンがあるたびに、買いためておいてくれたらしい。
お次は「XXXXLサイズの靴」。
どこで尋ねても「そんな大きなサイズは作られていませんねぇ」と
断られ、やっと見つけた貴重な一足。
そして、「賞金」。
べラが5キロやせたことへのご褒美。母のカードには
「これは、体重減量に日々、努力された賞です!」
と、書かれていた。訳してあげると、深くうなづきながら
「日々、おべんきょう!生涯、おべんきょう!」
と、力強く答えた。

父からは100均の黄色い「サイフ」をプレゼントしてもらった。
べラが日本に来て、1円も持たされていないのをかわいそうに思い
「自分のサイフがあれば、お金だって入れられる」
と、100円玉10枚つきのサイフである。

「とみ子さん、ありがとうございますー!
 のぶゆきさん、お世話になりますー、ありがとう!」
と、べラは日本人のように頭を下げ、ていねいにお礼を言っていたが
「じゃ、べラちゃん、試着しますよ~」
の母の一声で、恐ろしい試着ショーが始まった。
「はい、これ、Tシャツね、あーぴったり!」
「次は長袖の、あぁ、似合ってる似合ってる」
「こっちのは色ちがい、あぁいい感じ~」

次から次へと服を着がえさせられるベラは
「一生分の服を、着てる・・・」
と、つぶやきながら、まったくされるがままになっていた。

「すごい光景だな・・・」と、思った。
べラは完全に、両親の「着せ替え人形」になっていた。

(「ニッポン再発見記・10」につづく)

CIMG2425
CIMG2445
CIMG2420
CIMG2443

Facebook にシェア
[`google_buzz` not found]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です