11.会えたことに意味がある

今夜は、覚王山のスターアイズで、再会ライブ。
1年ぶりに「伊藤さん&中岡さん」
20年ぶりに「秀兄ちゃん&敦美お姉さん」と会えるのだ。

気合いをいれて音あわせをしていると
突然ドアが開き、一人の男性が姿を現した。
背広姿で、いかにも「今、会社帰りです」といった風貌。
最初5秒くらいは、誰だかわからなかった。

「あっ・・・秀兄ちゃん!」
なにしろ20年ぶりである。
「元気でしたか」
秀兄ちゃんは微笑みを浮かべながら、照れくさそうな口調で言った。
「・・・来てくれてありがとう」

それだけ言うのが、精一杯。
一瞬、弾くことなど忘れてしまった。
このまま話していたい、いっしょにそばにいたい衝動で
わたしは知らぬまに、秀兄ちゃんの背広をなでていた。

20年という時間。
交わさなかった言葉が、つもり積もって
わたしたちの間に横たわっていた。
でも、不思議なのは、それが壁ではなく
やさしさで満ちていて、ただ横にいるだけで
一瞬で飛び越えられてしまうものだったことだ。

きっとそれが、家族や友達というものなのだろう。
タンゴの名曲「ボルベール」でも言っていたではないか。
長年思いをつのらせていた故郷に帰るとき
「20年なんて、何でもない」と・・・

日常的な時間、カレンダーとはちがう
「別の時計」が、人生には存在する。
秀兄ちゃんとの再会で、それをはっきりと実感した。
時間の中に、人生があるのでなく
人生の中を、時間が流れていくのだ、と。

時間なんて、関係ない。
会えたことに、意味がある。
人生は、「起こしたこと」によってのみつづられていく、一大冒険記なのだ。
この世でたったひとつの。

「おおっ、元気そうじゃないの!」
そのとき、伊藤さんの大声が、お店に響き渡った。
伊藤さんの声は大きい。それをカバーするかのように
中岡さんが落ち着いた口調で
「1年ぶりだねー」
と、微笑む。
自然で、とても美しいと、べラ絶賛の中岡さんの笑顔。
「演奏、楽しみにしてるから!終わったら、一杯やろうっ」
すっかり忘れていたが伊藤さんは
マラガ人も顔負けの大声族なのだった。

「こんばんはー!」
さらに勢いよくドアが開いて、にぎやかなご一行様がなだれ込んできた。
「元気だったのぉ!ももちゃんっ」
「敦美お姉さん・・・」
20年ぶりの敦美お姉さんは、若々しく元気で、そして美しかった。
「わぁ、きれいだねー」
と、べラもうなづいている。そして急に口調をかえ
「あつみさんに、化粧をしてもらえばよかったのに・・・」
と、またしても「しみ問題」を持ち出してきた。

(「ニッポン再発見記・12」につづく)

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