第8話 新住人の登場

ショッピングセンターを散歩していると異様な奇声がきこえたきた。
ペットショップだった。
「あーっ」 ベラが1つの鳥カゴの前にへばりついてため息をついている。
「これ僕の国ウルグアイの鳥だよ。あ〜懐かしいなあ!」
家族はハンガリー人だが南米のウルグアイに移民し、ベラはそこで生まれ育ったのだった。
「へえ、安いんだねぇ。3,000ペセタ(約2,500円)なの? こんな緑色のキレイなオウムが。
他のは1万とか3万とかしてるのに」
「えっ、3,000ペセタなの!? ふーん……」
ベラの様子が何だかおかしい。そわそわ、キョロキョロおちつかない。
まさか…
「もも、今いくら持ってる?」
「えっ、3,000ペセタくらい」
「僕は4,000ペセタ(約3,500円)。1番安い鳥カゴはいくらかなぁ」
見るとまさに4,000ペセタ。ぴったり賞。 持ってけといわんばかりである。
暗算が終わった頃をみはからって店員がつつっと寄ってくる。
「好きなのを選んで下さい。どれにします?」
ゲージの中にはどう見ても全く同じオウムが10羽ほど飛び回っている。
「もも、選んで」 とベラが言うので
「じゃあ、これ。この子お願いします」
指さしたものの、店員が右手をゲージの中につっこんだとたん
すごい騒ぎになり、どれが選んだオウムなのかすっかりわからなくなっていた。
店員はニッコリさわやかに確認する。
「この子でよかったですね」
こうして選ばれたオウムは、鳥カゴの中を、私たちが見ても
全く臆する様子なく飛び回っていた。
「オウムと鳥カゴで7,000ペセタ(約6,000円)です。エサはどれにします?」
「えっ……」
エサのことまで考えていなかった私たちに、店員は次から次へと
○○風味だの○○入りだのと説明を始める。さらに
「おもちゃもあった方がいいですよね」
「あの…」
と仕方なく私が切り出す。
「実はお金がもうなくて… エサ付きってわけにはいきませんか? 
もちろん今夜の分だけでもかまいません」
店員は一瞬目を見開いたもののすぐに黙って1番安いひまわりの種の袋をつけてくれた。
「すいません」
あきれてはいたが元来大ざっぱで細かいことにこだわらないマラガ人。
すぐに気をとりなおすと、
「このオウムは人といるのが大好きなんですよ。きっと楽しい毎日になることまちがいなし!」
と太鼓判まで押されて帰途についたのだった。

翌日、
「ゲェーーーーーーーッ!」
というマンションに響き渡るすさまじい叫び声で目を覚ました。
その音の主がオウムであるとわかるのに数秒を要したほどだった。
昨日は沢山の動物の奇声にまぎれて気がつかなかったが、
この小さなからだのどこにこんな声量がかくされているのだろう。
緑色の物体は奇声をあげながら鳥カゴの中をとびはねている。
「うーん」
これからは”料理人”だけではなく”飼育係”にもなるのではと、いやな予感に包まれた。


(第9話につづく)

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