小説応募祝いのイワシランチ

小説の原稿すべてに「穴」をあけ、ひもでとじ、封筒に入れ、郵便局へ走る。
この封筒も、実は昨夜の12時すぎまで、手作りしていた。

既成の封筒に原稿を入れてみると、
あまりの重みで今にもやぶれそう。これでは、日本までもちそうもない。
そこで、「カルトン画」を描くときの、ダンボール箱の底紙で
原稿がぴったり入るように、厚さ3センチのA4サイズの箱を作った。

カートンとはいえ、白なのでつい、
「むむむっ、何か描きたい!」
と、夜中の1時に、青インクで「吉祥画」を描いていた。
それから、玄関に翌日持って行くための
「屋外特設オフィス用」のテーブルやイスを用意していたので
ベッドに入るともう、夜中の2時だった。

そんなこんなで、やっと郵便局までたどり着き、
「ハポン(日本)に、送りたいんですけど」
「はい、お受け取りしました」
と、言われたときは
「これで楽になれる~」と、へたりこみそうであった。

2月5日から始まった、原稿用紙500枚書き。
小説応募作戦は、こうして無事、幕を閉じた。
郵便局の横には、われらが自慢のエル・パロの市場がある。
「お祝いに、何かおいしいものでも、買っていこう」
と、足を踏み入れたそのときだった。
「イワシ、特価だよ!1キロ2,5ユーロ、今朝あがったばっかりねー」
「むむむ、イワシねぇ」

書いていた小説は、実は「イワシにまつわるもの」だったので、
これは、イワシを食べてしめ!が、正しい。
ここで、奮発して牛肉なんぞに、ふらふら寄って行っては、いけないのだ。
なにしろ、イワシを食べて生きる貧乏ボヘミアンたちの話、なのだから。
「イワシ、1キロくださーい」

家に帰ると、ベラがさっそく寄ってきた。
「これで応募もすんだから、ももは暇になるんだよね」
「いちおう・・・」
凧揚げに行くのだろうな、今週末は。と、心でつぶやいた。
本当はゆっくりしたい。衣替えもしたい。セーターの手洗いも。
たまった仕事が、山のようにある。
「何、買ってきたの?」
「イワシ」
「へえ~、小説応募祝いのイワシランチ?きっとイワシ運がつくよ!」

金運には縁遠い私たち。
だが、イワシ運がつけば、人生なんとかやっていけるかもしれない。
と、イワシに塩をふりかけながら、思った。

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