昨年のことになるが、大野さんから国際電話で
「はらぺこ山羊さんの歌を作ってほしい!」
と言われ、突然このプロジェクトは始まった。
テーマはもちろん「やぎ」。
こうなると、道を歩いていても、テレビを見ていても
山羊にばかり目が行くようになり
「めぇ、めぇ~」
言いながら、毎日を過ごす。
マラガで一番ポピュラーな動物は、やぎ。
ちょっと田舎に行けば、必ずぞろぞろと群れになって行進している。
ちなみに、スペイン語でやぎは「カブラ」。
大野さんから送られてきた歌詞の最初は
「ねぇ、めぇ~」
だったので、台所仕事をしながら、掃除をしながら
勝手にフレーズをつけて口ずさむ。
そのうち、だんだん曲の形をなしてきた。
そろそろピアノに向かおうかな、と思ったとき
「ねぇ、めぇ~」
と、ベラがまねをして歌った。
「その出だし、耳について離れないんだよねー」
これぞ、名曲というものであろう。
確信して、ピアノに向かう。
あとは、すらすらと出てきた。
実はこのとき、私の頭に浮かんでいたのは
マラガの茶色い山羊たち。オリーブの丘の急斜面を
「ええいっ」
と、勢いよく登る野性的なやぎだ。
家畜ではあるが、筋肉がついて引き締まっており
近くで見ると迫力がある。
元気すぎて、よく停まっている車の上に乗って
ヤギ使いのおじさんに叱られている。
だから、アレンジも自然とスイングが入った。
そして、間奏にスペイン語で
「アブラカダブラ、チビカブラ~」
と入れたいな、と思った。
作曲するとき、「映像」はとても大切だ。
自分の中ではっきりと一枚の絵、写真のように
ビジョンが、光景が見えているときは、うまくいく。
それは、絵を描く、小説を書くときも、同じ。
演奏するときだって、そうだ。
する前から、それをしたときの光景が
はっきり一枚の絵、写真として見えている。
そのビジョンに、いつも私は導かれている。
日本で大野さんと再会し、歌ってくださるマミエルさんに出会い
「録音」が実現した。
形になっていく過程というのは、発見の連続だ。
エネルギーが一点に集まるすごさ。
だから、2、3時間なんて、あっというまに過ぎる。
この春、大野さんが岐阜の新緑の中をかけ回る
かわいいやぎの映像を作ってくれた。
主演女優がまた素朴で、かわいかった。
「はらぺこ山羊さん」デビュー!
音楽界にとっては、ほんの小さな「一石」にすぎない。
でも、この山羊は空を飛んで、日本とスペインを結んだ
「空飛ぶ魔法のやぎ」なのだ。
音楽は、心のかけ橋、と言う。
私たちは作品を作ったが
作品を通して、発見の旅に連れていかれたのだと、今思う。