年末に、香港に住む大木ちゃんから
年末年始状が届いた。
が、そこに書かれていたのは
「祝聖誕快楽・・・」
という、不思議な5文字であった。
どうやらそれは広東語で
「メリークリスマス!」
を意味するらしい。
どう発音するのかを後日、大木ちゃんに聞いてみると
「シン・ニエン・クアイ・ラア」
これに、近いらしい。
らしい、と大木ちゃんが不安がる理由は
「歌を歌うがごとく、上がったり下がったり」する
広東語は、この不思議な音程を
使い分けるところに極意があり
今でもマスターできず、苦しんでいるとのことだった。
音を正確に上げ、下げないと、意味不明。
タクシーに乗っても、他の住所に連れていかれたり
意味不明の料理が、来たりするらしい。
「これは、大変そうじゃ~」
一本調子の日本語。
しり上がりのスペイン語(正確に言うと最後から
2音節目にアクセントをおく)とちがい
広東語は、「音の高低が命!」なのらしい。
わたしは、大木ちゃんの指示どおり
「シン・ニエン・クアイ・ラア」
を発音してみることにした。
「シンは、音で言うと『ソ』の感じかぁ」
「ソ~、シン~。こんなとこかな、よし次!」
「ニエンは、『ドからソ』に一気にかけあがる感じねぇ」
「ドレミファソ~、ニエン~」
なんだかすごいことになってきた。
「クアイは、逆に『ソからド』に下りる感じかぁ」
「ソファミレド~、クアイ~」
どんどん、メリークリスマスから遠くなっている気がする。
太極拳をやっていたべラが、不思議な表情を浮かべ
「いったい、何をやっているのか」
と、近寄ってくる。
「広東語で、メリークリスマスを言う練習」
「中国語で、歌を歌ってるのかと思った」
それで、いいのである。
歌うように、広東語は話さねばならない。
「ラアは、『ソとドの音』で、だから・・・」
「ソード~、ラーア~」
よし、これを一気に、ワンフレーズで歌えば
晴れて「メリークリスマス」になるわけである。
「シン・ニエン~・クア~イ・ラアー」
なんだこりゃ。
もっと歯切れよく言わねば。
メリークリスマスなのだ。
スピードもアップしてみよう。
「シン・ニエン~・クア~イ・ラアー」
よしよし。
さっきより勢いがついて、おめでたい感じが出てきた。
が、広東語というのは
ソファにだらっと座ってしゃべれる言語ではないな。
この一瞬にして、高低をつけフレージングしていくという話法は
「私はこれが言いたいんです!あなたっ」
くらいの強い意志がないと、できるものではない。
さらに、やってみてわかったが
早口&勢いよく言おうとすると
のどの筋肉を、かなり快活に動かさねばならない。
のどをしめたり、ぐっと力を入れたり。
こんなこと、昨日今日で
できるようになるものではない。
「シン・ニエン~・クア~イ・ラアー!」
これで、合っているのかもわからない。
が、本質には、近づいているはずだ。
おめでとうを、現地の言葉で言ってみる。
そこに、意味がある。
ま、いるのはスペインだが。
テラスに立ち、大木ちゃんのいる香港めざし
東南に向かって合掌した。