第65話 チュッピー、オスタルで大騒ぎ

新年があけると、ようやくわたしたち音楽屋も、ひと息。
4~10月のホテルでの演奏シーズン、秋の結婚式、クリスマス、大晦日、
ニューイヤー、ここまで、基本的にノン・ストップ。
そのあいだにピアノ教室、発表会、音楽学校の試験をこなし、気がつくと
「あやや、年が明けてた・・・」
って、あわててお供え物をして手をあわせ、お線香をあげるのだ。
わたしたちにとって、1~3月はバケーションなのだが、
同時に新しい曲を作曲したり、編曲したりする「創作期」でもある。
だからバケーションといえども、家にカンヅメになって髪の毛をかきむしりながら
「そこはシンコペーション、で、ここは4分の2拍子ね、テーマ2回目はテンポあげて、
そのあとピアノのアドリブ入るから、あっ、そこのラはフラットね」
などと、やっている。
「ああ~、演奏してる方が楽だー!外に出たいよー」
と、ベラがテラスから犬のように身を投げ出しているので、さすがに不憫になり
「じゃ来週、1泊2日で小旅行しようか」
「ほんと?」
って、顔だけふりかえるところが、本当に犬みたい。お散歩したいよね。

そうと決まれば、目的地決め。
「カンポ(田舎)でのんびり」がベラの希望、わたしは
「観光化されてない白い村で、地元の料理に舌つづみ」
結局、マラガ県とカディス県の境目あたりのカンポを、うろうろすることになった。
さっそく荷物を積み込み、出発!
オウムのチュッピーも、お出かけ用・鳥かごとともに出発!
って、車の中では放し飼いなので、自由にぴょこぴょこ跳ね回っている。

一日カンポでのんびり、マテ茶をちゅーちゅー吸いながら、ベラ幸せそう。
よかった、よかった、と胸をなでおろしていたが、まさかその夜、
その平和を破る出来事が起きようとは、思ってもいなかった。

おいしい料理に大満足して、いざオスタル(民宿)の部屋へ。
「ああ~、バケーションはいいなぁ」
と、ベッドに身を投げ出すベラ。そのとき、オウムのチュッピーが突然、
火がついたように鳴き出した。
「グワー、ギャンギャン、ギエ~!」
「な、なんなんだ・・・」
数時間、ほったらかしにされていたチュッピーは、わたしたちに訴えた。
「遊んで♪」
「僕はバケーションに来たんだ。もも、オウムを黙らせてよ」
「って、どうやって?」
「このままじゃ、僕たちオスタルから追い出されるよ!内緒でオウム、連れ込んでるんだから」
って、確かに。
でもどうやって・・・と考えていると、突然ベラがチュッピーをつかんで歩き出した。
「どうするの?」
「シャワー室にいれる」
オウムはシャワー室の暗闇に突然、置き去りにされた。
「ギエエエエーーーーーー!」
鳥は暗くなると黙り、寝るという習性がある。
しかしそれは本に書かれていることで、明らかにわたしたちのケースとはちがっていた。
「だ、黙れ、チュッピー!」
ベラはオウムを鳥かごに入れると、今度は洋服タンスの中に突っ込み、さらに鍵までかけた。
「頼むよ、チュッピー!」
祈るような声でベラは言った。が、その願いはついに聞き届けられなかった。
「ギャャャャーーーーーー!」
「ひえ~・・・」

仕方なくわたしたちは、チュッピーを鳥かごに入れ、車の中に置き去りにすることにした。
かわいそうで後ろ髪を引かれたが、ここならいちおう安全だ。
「バケーションなのに疲れちゃったよ」
「ごめんね」
わたしたちは、やっと静かになった部屋で、あっという間に寝てしまった。

翌日、朝一番で車を見に行くと、車の中で何か緑色のものが、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
「な、なんなんだ!」
近づいて行くと、なんと鳥かごに入っていたはずのチュッピーが、
運転席のベラの頭をおくところで、元気よく踊っている。
「いったい、これは・・・」
「どうやって、出たんだろう」
呆然とオウムを見つめながら、わたしたちはどっと昨夜の疲れが出て、
しばらくそこに立ちつくしていた。

 

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