第68話 わたしはサンタナ!

ピアノ教室の子供たちの教材を用意していると、電話が鳴った。
イベント会社を経営するハビエルは年に1,2回しかつきあいのない人だが
「不況で、もう事務所の女の子、おいとけなくなりました」
と、これから一人で事務所を運営していくことを暗い声で伝え
「あらら~、がんばってハビエル!応援してるよ」
と言ったとたん、
「実はひとつ、仕事の話なんだけど・・・」
って、そういう流れで持ってくな、っていうの。
「それがさぁ、サンタナなんだよね」
「サンタナ?」
「ブルースのグループ、急にだめになっちゃって」
「まさか・・・」
「まだ1ヶ月あるから、なんとかなるよね」
「その人たち?」
「いや、ももたち。ここで穴あけたら、僕もう終わりだよ」
って、なぜこうなるんだ。そこで無情に
「そんなこと、できません」
って言えばすむのだが、ハビエルは以前わたしたちと小劇場で仕事をしたとき
『アカ』を自分でひっかぶって、アーティスト全員に気持ちよくギャラを払った奇特な方である。
スペインでこういう人は珍しい。それもあって
「この窮地、何とかせねば!」
と早くも、体育系の熱い血が全身にわなわなとみなぎってくるのであった。

「はあ?サンタナ?」
ブルースなんて何も知らないベラは、バイオリンを持ったまま固まっている。エルネストは
「かっこいいよね~♪サンタナ、『ヨーロッパ』とか弾きたい」
って、のりのり。いったいこのメンバーで、どこからどう練習を始めていいのか。
『リト・ブルース・バンド』のギターリストであるリトに、さっそくレクチャーしてもらう。
といっても全部弾きながら、聞きながら『耳で』ライブで理解するのだ。
3時間の練習で、なんとか基本は理解したものの、ブルースって魂で
うなるように弾くわけだから、クラシックみたいに楽譜を見て弾くわけにもいかない。
「本当に1ヶ月で、人前で弾けるようになるんだろうか」
と、さすがに不安になってくる。しかし、もっと心細そうなベラを見ていると
「成せばなる!やったろーじゃないの!ブルース」
って気分は、グランドに立った星ひゅうま(漢字わすれた)、
コートに立った鮎原こずえだ。
「わたしはできる!わたしはサンタナ!」
そう口にすれば、気分も爽快、腕に入れ墨ぐらい入ってる気分。
それにしても、体育系の、この瞬間沸騰的・自己モティベーション力の高さはなんだろう。
グランドに、コートに立つだけで、
自分が星ひゅうま、鮎原こずえに思えるこの力とはいったい。

さて、特訓のかいあって、1週間後にはやっと形になってきた。すると電話がなり
「パーティを企画した者ですけど、音楽の方はだいじょうぶですか」
「だいじょうぶです!」
「ところで何を弾くんでしたっけ、ソウル?」

って、あのねぇ、いったい何なんだ。
結局、当日はブルース、ジャズ、ボサノバなんでもよく、酔っ払いたちはグラスを片手に
ロシア民謡を大合唱、踊り狂いながら
「カ~リンカ、カリンカ♪」
って、その光景を見ながらわたしは、この1ヶ月の血のにじむような毎日の猛特訓のことを
思い出し、気が遠くなりそうだった。

 

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「第68話 わたしはサンタナ!」への8件のフィードバック

  1. 速報!
    マラガにたった今、あの熱風「テラル」が到着しました!
    朝の10時半で、すでに空気は「スープ」状態。
    今、あわてて家中の窓を、ぜんぶ閉めたところです。
    今日も、夕方からホテルに弾きに行くんだけど
    屋外レストランなんだよなぁ、乾燥で干からびちゃうな~。
    日本はきっと梅雨で、しっとりじっとりなんでしょうね。

  2. 最近の日本の梅雨って、豪雨かぴーかんか、どっちかな感じ。湿度は高いんですけど、しとしとしてるのはあまりないかも。

    しかし、テラル、一度、経験してみたい気もするけど、ひからびるのは怖いなぁ。。。

  3. 『怖いものみたさ』とは、こういうことを、言うのですねぇ。
    先日『テラル』の中、演奏に行き、
    やっぱり、干からびて帰ってきました。はぁ~。

    しかし「テラルを経験したい!」となると
    やはり本場『マラガ上陸』ですね。
    これからは、料理や景色の写真も、入れていく予定です。
    『マラガ・バケーション計画』を、密かにすすめてください。

    そのためのデジカメ、特訓中!なのですが
    いったいどうやったら、撮った写真がパソコンの中に、
    入るんですかねぇ。
    ちゃんと、入りますかねぇ。

  4. デジカメ購入おめでと~。
    パソコンとデジカメが何かがわかれば写真を入れられるかどうかわかりますよ(たぶん)。
    デジカメは何を買ったのかな?

  5. カシオの『EXILIM』です。
    『撮る』『バッテリーを充電する』とこまで、きました。
    友人が『メモリー』を入れてくれたので、助かりました。
    あんまりうれしくて、演奏先のホテルに持っていって、
    仕事のあいまに、撮ってます。
    なんか、お客さんみたい・・・。

  6. その後、デジカメは無事パソコンに取り込めましたか?PCとEXILIMが接続できましたか?ももちゃんのことだから、撮ってる量は半端ないと思うのですが。。。

  7. 接続できてません。どうしてかな。
    クロ隊長を頼って、名古屋に行きたいくらいです。
    カレーうどんや、なごやん食べながらレクチャー。いいなぁ。
    『カメラとパソコンをつなぐ』とこまで、きましたが
    つないでも、画面になんの変化も起こりません。なぜ?
    ???(・。・)???

    『絵文字』こんな感じで、いいですか。

  8. 絵文字、ステキですね。いい感じです。

    物理的に接続できたのなら、パソコン側の問題ですよね。うーむ。EXILIMに対応していないパソコン環境なのかな。。。

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